「腕なし名人」と称された鄭曼青の流れを汲む黄性賢一門の太極拳の特徴は「鬆身五法」といった身体をリラックスする練功法があるというだろう。
リラックス(放鬆)は太極拳をはじめ、中国武術の修練において非常に重要なことであり、難しいものだといっていいだろう。真の「放鬆」を会得していない人は武術の完成はできないといわれている。
「放鬆」を会得しないと中国武術独自の内面の力を出すことができないし、「放鬆」をまったくしらないまま太極拳の型を何年も練ったところで、健身の効果もさほど出ず、却って膝や腰を痛めたりするケースが多く見られる。実用にしたって「放鬆」を会得しないと、太極拳の技法が使いこなせずに相手にやすやすと相手にやられてしまうのである。それはまだ力んいる状態であり、重心が胸や肩或いは腰に留まった状態であり、足の裏まで落ちてないからである。従って相手からの攻撃が来た場合、どうしても抵抗して力んでしまう結果となってしまうのだ。
その点、劈掛拳や通臂拳は徹底した身体を緩ます徹底したカリキュラムがあり、すぐれた拳術だといえよう。
しかし実際には「放鬆」って?と思ったことがある人もいるかと思うし、自分ではリラックスしているはずなのに、太極拳の先生から「まだ肩に力が入っている」とかうるさく注意された人が多いかと思う。
鄭顯気老師一門は「鬆身五法」を徹底的におこなう。まさに「放鬆」を身につけるノウハウが備わっているのである。これらの練習を回数を重ねることによって真の「放鬆」を体得し内面の力を強く出せるようにしていくそうだ。
ようするに鄭曼青から黄性賢へと受け継いだエッセンスが集約してできた練功法といえるのである。
この「鬆身五法」の練功をおこない、完全に「放鬆」ができることにより、上体に力んで浮いていた重心を足の裏(湧泉穴)まで落とせるようし、そこから内家拳で強く要求される『整勁』を発することができるわけである。
南派に属す拳術は一般的に足を踏ん張って立ち、力強い動きが見られるので、動きが「硬い」と言われている。
だが、南派拳術は「反清復明」の革命戦士が、誰でも即実戦に使えるように工夫されて作られており、「実戦技法」や打って鍛えたりする外功法、または「呼吸法」「運気」など気を練ったりする内功法などさまざまなカリキュラムが明確であり、合理的に構成されている。
よって多くの著名武術家も研究していたのだ。
たとえば、意拳の創始者である王向斎は意拳(太気拳)を作る際に、白鶴拳の動きも参考にしたほどなのだ。また通備門創始者、馬鳳図も南派の短打拳法と棍術をも研究し見識を広めたともいう。その他古今を問わず、多くの武術家が、白鶴拳といった南派拳術を研究したりしているのだ。
台湾や福建、広東といった地域は白鶴拳の一大勢力地であり、実際現地に行ってみると、「白鶴拳にやられた」といった声がよく耳にするし、日本で実戦派としてかなり書籍に出ている武術家も現地で白鶴拳にやられたとも聞く。
鄭顯気老師は「白鶴拳は力を発する時は緊張するが、その他の時は太極拳のように弛ませる。太極拳はすべてにおいて弛んだままである、だから弛んだ状態の時双方がかなり共通するものがあり、一緒に練習できる」と説明する。
古伝の風格を残しながら、合理的に作られている白鶴拳は「五形手」が根本により構成されている拳法あり、鶴が羽を広げるかのように、手技など柔らかい動きが要求されている。
最初に足の功力を高めるためにおこなう「三戦(※空手道の三戦立ちと似ているが、要求がまったく違う)」は重心を後7、前3と立ち、呼気をしながら、胸を含ませて、肛門を前前方へ引き上て、内功を練り、身体を作っていくのだ。また、白鶴拳で有名な「コォー」と息吹を出しながら全身を激しく震わす「白鶴震身」は呼吸法と運気等を用いているようだ。これらの内勁を練るのは、太極拳をはじめとする内家拳が最も重要視するものと多くの共通部分があるとみられる。また白鶴拳の相対の対打練習も柔らかくて粘り強い。まるで力を感じながら練っているようだ。力んだままガチンと強く腕をぶつけたりする南拳のイメージとはまったく違い、太極拳の推手のようであり、「沾、黏、連、随」と「聴勁」も要求されるという。これらのことと先ほど説明した「放鬆」のことも含め大いに太極拳と共通部分が伺えることができる。
黄性賢はこの白鶴拳を学んだ後に鄭曼青に師事し、長年太極拳と白鶴拳を練るのを経て、独特の功法を編み出しのである。
晩年の黄性賢は歩行が困難であったので、車椅子での生活であったが、車椅子に乗ったまま屈強な弟子を数メートルも吹っ飛ばしたのである。これはまさに内勁と言えるものである。
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